第1話 「火灯し頃、訪れし刻」 その4

「で、話ってなーに?火雁くん」

「あの……えと……そのぅ……」

 

 

言葉を紡ごうにも、口が言うことを聞かない火雁。デュエルでいくら勝ち続けて自信を付けようが、好きな女の子の前ではこんな調子。優秀ではあるが不器用な彼は、ゆうなにロクに近づきもせず交際を賭けてデュエルを挑もうとしていた。

 

 

「僕と……デュエルして下さいっ!それで、僕が勝ったら……ひともしさん、僕と!つつつつ付き合ってくださいお願いします!」

「いいよー」

「へっ!?」

 

緊張する自分とあまりに相反するように、軽く了承するゆうな。一体どういうつもりなのだろうか。火雁の頭の中も、考え得るプロセスから外れて混乱していた。

 

意中の人であるゆうなを、決して見下しているワケではない。しかし火雁の頭にあるデータでは、ゆうなが自分に勝てる確率は0%。そもそも、彼女が実戦形式の授業でデュエルに勝っている姿を見たことが無かった。

 

「本当に!?本当にいいの!?僕と……」

「早くやろーよー、いちおー時間限られてるんだからね?遊戯王DX始まっちゃうよ」

「うん……ひともしさんがそれで良いなら……行くよ!」

 

 

――デュエル!!

 

 

「(おいおいおいあいつさらっと何て約束してんだ!?付き合う!?火雁と!?嫌な予感的中したぜ……)」

 

屋上の扉越しにこっそりと顛末を見ていたアサトの心の中はもうハチャメチャであった。幼馴染が、交際を賭けてデュエル?冗談ではない。何となくだが、娘を嫁にやる父親の心境が分かった気がした。

 

 

火雁

ライフ4000

手札5

 

 

「僕の先攻!……よし!僕は手札から、通常魔法《火炎放射》発動!」

 

 

《火炎放射》

通常魔法

(1):自分のデッキから、攻撃力1500以下の炎族モンスター1体を表側攻撃表示で特殊召喚する。

相手のデッキに攻撃力1500以下の炎族モンスターが存在する場合、相手も攻撃力1500以下の炎族モンスターを1体表側攻撃表示で特殊召喚する。

「火炎放射」は1ターンに1度しか発動できない。

 

 

「僕が選ぶのはこのカードだ!来い!《プロミネンス・ドラゴン》!」

 

 

《プロミネンス・ドラゴン》

効果モンスター

星4/炎属性/炎族

攻1500/守1000

自分フィールド上にこのカード以外の炎族モンスターが存在する場合、このカードを攻撃する事はできない。

自分のターンのエンドフェイズ時、 このカードは相手ライフに500ポイントダメージを与える。

 

 

「おー、熱そうなモンスターだね!今冬だから暖房にはちょうどいっか。あったかあったか」

 

呑気なものである。とても自分自身の交際がかかっているとは思えない余裕。手札を見もせず扇のようにひらひらさせて遊んでいる。そもそも勝算はあるのか。

 

 

「ひともしさん、せっかくだから……僕からプレゼントをあげるよ。《火炎放射》の効果でひともしさんも、炎族のモンスターを特殊召喚していいんだ」

「ほんとー!?火雁くん優しいんだねー!」

 

 

火雁はもちろん知っていた。ゆうなが《火炎放射》の条件に該当するモンスターをデッキに入れていることを。彼女がそのカードを絶対にデッキから抜くことが無い程愛していることを……。

 

 

「じゃあ、デッキから《ユートピアン・メラリア》を攻撃表示で特殊召喚!じゃじゃーん!」

 

 

ユートピアン・メラリア》

効果モンスター

星1/光属性/炎族

(1):このカードは相手プレイヤーに直接攻撃できる。

(2):このカードは戦闘では破壊されない。

 

 

「メラちゃん今回もお願いねー!」

 

 

サンドバッグとなることをお願いされているような気がしてならないメラリアだったが、最早慣れっこである。

 

ゆうな自身が何を考えているのかは分からないが、「何も考えていないのだろう」というのがメラリアの正直な気持ちであった。

 

しかしこの勝負は、メラリアにとっての「友達」の貞操が懸かるデュエル。いざとなれば、身振り手振りで戦略を指南しようという覚悟であった。――メラリアは、ゆうなよりも遥かに頭が良い。

 

 

「ひともしさん、凄いものを見せてあげるよ!僕はさらにこのカードを発動!速攻魔法、《煉獄の暴走召喚》!」

 

 

《煉獄の暴走召喚》

速攻魔法

(1): 自分フィールドに攻撃力1500以下の炎族モンスターが特殊召喚された時に発動できる。

その特殊召喚したモンスターの同名モンスターを 自分の手札・デッキ・墓地から可能な限り攻撃表示で特殊召喚し、相手は自身のフィールドの表側表示モンスター1体を選び、 そのモンスターの同名モンスターを自身の手札・デッキ・墓地から可能な限り特殊召喚する。

 

 

「僕はデッキから《プロミネンス・ドラゴン》2体を特殊召喚!これでフィールドに《プロミネンス・ドラゴン》は3体!」

「(……!あれだ!オレの時もあのコンボでいきなり……“ロック”仕掛けやがった!)」

 

 

扉越しに、アサトは惜しくも準優勝に終わった先日の大会を思い出していた。この戦法は火雁の常套手段。アサトのデッキに炎族モンスターは存在せず、一方的に初ターンから大量展開を決められてしまった。アサトの言う「ロック」とは……

 

 

「他の炎族がフィールドにいる時、《プロミネンス・ドラゴン》は攻撃対象にならない!」

「んーと、ってことはこっちの《プロミネンス・ドラゴン》が攻撃……あっ、できない??」

「うん。全部の《プロミネンス・ドラゴン》に攻撃できなくなったね」

「え~!?」

 

 

ゆうなの攻撃を封じる、これが「ロック」コンボ。相手の行動を抑制するための戦術である。思わず、ゆうなはむーっと考え込む表情を浮かべる。

 

 

しかし、火雁が《煉獄の暴走召喚》を使用したのには他の理由もあった。先程の《火炎放射》同様《煉獄の暴走召喚》には相手にもモンスターを特殊召喚させる効果がある。ゆうなにも《ユートピアン・メラリア》を展開させ気を惹こうとしたのだ。

 

呼ばれるのは弱小モンスター、勝算に狂いは無い。手札にも既に「あのカード」が来ている。億に一でもピンチに陥った場合は、勝利を盤石にするためのそのカードを使うし、出番が無いまま終わる可能性もある。――最終的に勝てば良いのだ。

 

 

「ひともしさん、《煉獄の暴走召喚》の効果で君も」

「あたしメラちゃん1枚しか持ってないんだ~ゴメンね」

 

 

結果的にデュエルの勝率は下がらなかったが、2回目のプレゼント作戦は失敗した。《ユートピアン・メラリア》を入れていることは把握していたが、当然デッキに投入できる上限である「3枚」入れていると思い込んでいた。

「《ユートピアン》のデッキなのにどうしてキーカードが1枚なのだろう」と、火雁はゆうなのデッキの裏をつい勘ぐってしまう。

 

ゆうな曰く敢えて1枚だけ入れることで「主人公っぽさ」を演出しているらしいが、そもそもデッキに《ユートピアン》同名モンスターが2枚以上存在することはあり得ない。――2枚以上「入れられない」のだ。そのことに誰一人として気付いていなかった。

 

 

「……まぁいいや。先攻は攻撃できない……カードを1枚伏せて、エンドフェイズに《プロミネンス・ドラゴン》の効果を発動!相手ライフに500ポイントのダメージ!」

「おっ、アサトくんと同じ先攻でバーン効果だね。500……が、3回!?」

「そう、先攻で……1500ポイントのダメージだ!」

 

 

ロック効果と、バーン効果。炎属性のモンスターを軸とした「ロックバーン」が、火雁のデッキの基本である。

 

 

ゆうな

ライフ4000→2500

 

 

「カードを1枚伏せてターンエンド。……ひともしさん、もう一度聞くけど……本当に僕が勝ったら僕と、付き合ってくれるの?」

 

 

火雁

手札5→2

 

 

「…………」

 

 

話を聞いていなかった。先制バーン以外に何があったかと言うと、火雁の展開をぼーっと見終わり、バーンダメージを受けてようやく慌てて見た手札が、あまりに使ったことの無いカードばかりだったからである。

 

 

ゆうなは基本的に、デュエルは「適当」である。だからさっきひらひらと扇にしていた手札を今更開いて見たし、メラリアを場に出してからどうしようこうしよう、ということは一切無い。「デュエリストの勘」という玉虫色の言葉をよく使う。

 

 

「(そうだった~!デッキおかしくなってたのに調整もしないままデュエル受けちゃった~!)」

 

 

どちらかと言えば、デッキ調整云々よりもこのデュエル自体を受けたことが問題な気がする。

 

 

ここでゆうなの不穏な雰囲気を察したのか、メラリアが炎で形作った掌でデッキを指差す。ドローしなければ何も始まらない。それは1枚のカードに勝利を求める、デュエリストの常。ゆうなの、1ターン目。

 

 

「あたしのターン!ドローっ!」

 

ゆうな

ライフ2500

手札6

 

 

「うん、この手札でやるしかないよね?メラちゃん。あっ、今引いたカード……あたしが入れてたヤツだ!」

「(ひともしさん……いいや、ゆうなちゃん!絶対に勝って君を……)」

 

 

切り札を出すかのように、ゆうなの目がキラリと光る。万感の思いを込めて繰り出す一撃。

 

 

「あたしは手札から、速攻魔法、《ウルトラスーパーアルティメットエクストラシークレットパラレルレア》発動!」

 

 

《ウルトラスーパーアルティメットエクストラシークレットパラレルレア》

速攻魔法

(1):フィールド上に表側表示で存在するカード1枚を選択して発動する。

選択したカードはこのデュエル中、レアリティを「ウルトラスーパーアルティメットエクストラシークレットパラレルレア」として扱う。

 

 

「メラちゃんのレアリティをウルトラスーパーアルティメットエクストラシークレットパラレルレアにするっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

……………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……にするっ!」

「(???……そのカードに何の意味が……?)」

 

 

このカードの効果で、メラリアのレアリティはウルトラスーパーアルティメットエクストラシークレットパラレルレアとなった。心なしか、身に纏う炎が煌びやかになっている……気がする。

 

 

「すごいでしょー!メラちゃんいいよ!輝いてるよ!」

「そ、そうだね……うん」

 

 

なるべくゆうなの気を損ねないように配慮しつつも、あるハズの無い裏を勘ぐる火雁。結局ゆうなは手札を1枚無駄にしただけだったというのに……。

 

 

見かねたのか、メラリアが炎の指でちょいちょい、と1枚のカードを差した。どうやら「発動して」とのことである。それも、今までゆうなが使ったことも無いような別段強力な魔法カードを。

 

 

「およ?メラちゃん珍しいね~ ……代わりにデュエルしてくれると、ありがたいんだけどなぁ」

 

 

「じゃあ何でお前がデュエル受けたんだ」と、陰でツッコミを入れるアサト。最早誰の誰による誰のためのデュエルなのか……。

 

 

「う~ん、ゴメンね、パチちゃんを捨てて……手札から通常魔法《ライトニング・ボルテックス》はつどーう!」

「!?」

 

 

《ライトニング・ボルテックス》

通常魔法

(1):手札を1枚捨てて発動できる。 相手フィールドの表側表示モンスターを全て破壊する。

 

 

ロックが崩れる瞬間があまりに唐突に訪れた。先程の意☆味☆不☆明なカードと裏腹に、強烈な全体破壊魔法を放ったゆうな。フィールドで蠢いている炎の龍たちが乱舞する雷に打たれ始める。

 

 

「ラ……ライトニング・ボルテックス!?」

「(おっ!?ロック突破するカード入れてたのか!これで火雁は……)」

 

 

先程のネタカードはともかく、《ライトニング・ボルテックス》通称「ライボ」と呼ばれるカードをデッキに入れたゆうなを見て素直に感心するアサト。そう、ゆうなの家のストレージに眠る良カードの一種である。

 

 

「くっ……まさかひともしさんがそんな強力なカードを入れてるなんて……」

 

 

一番驚いたのは、実際に使われた火雁。これ程のカードを使えるデュエリストがなぜ、弱い弱いと囁かれ、実際に下手くそなデュエルを今まで学校で披露していたのか。

 

 

底知れない危険性を察知したのか、すかさず火雁は伏せておいたカードを開く。

 

 

「……でもここまでは想定できた?きっと君の見たことの無いカードだよ。永続罠、《キックファイア》発動!」

 

 

《キックファイア》

永続罠

このカードがフィールド上に存在する限り、自分フィールド上に表側表示で存在する炎属性モンスターがカードの効果によって破壊される度に、その破壊されたモンスターの数だけこのカードにカウンターを置く。

この効果は1ターンに1度しか適用できない。

また、自分または相手のスタンバイフェイズ時にこのカードを墓地へ送って発動できる。

このカードの効果によってこのカードに乗っていたカウンターの数×1000ポイントダメージを相手ライフに与える。

 

 

「《プロミネンス・ドラゴン》が3体破壊されたことで、《キックファイア》にカウンターが3つ乗る……次の僕のスタンバイフェイズにこのカードを墓地に送って、3000ポイントのダメージで勝ちだ!」

 

 

意気揚々と説明でフラグを立てていく火雁。ゆうなのライフは2500。確かにゆうなの手札にダメージを防ぐカードが存在しなければ、火雁の勝利は確定し、彼の望みは成就する。

 

 

――しかし、そう易々と勝利を手にさせてくれる程、ゆうなの「友達」は甘くなかった。

 

 

「んー?次はこれ?メラちゃん今日は凄いやる気だね。どしたの?」

 

 

「あなたのことが心配なの」とでも言いたげに、次のカードを指し示すメラリア。そのカードは、奇しくも今朝アサトに大ダメージを与えたあのカードだった。

 

 

「装備魔法、《進化する人類》はつどーう!メラちゃんに装備して攻撃力24000000倍!」

 

 

《進化する人類》

装備魔法

自分のライフポイントが相手より少ない場合、

装備モンスターの元々の攻撃力は2400になる。

自分のライフポイントが相手より多い場合、

装備モンスターの元々の攻撃力は1000になる。

 

 

ユートピアン・メラリア》

攻撃力100→2400

 

 

「メラちゃんはモンスター無視してダイレクトアタックできるんだよ!」

「……うん、でも効果関係無く僕の場がら空きだね……」

「あっそっかー ………いっけーメラちゃん!“24000000倍ウルトラスーパーアルティメットエクストラシークレットパラレル効果関係無しワンダー・フレイム”!」

 

 

口が回るのか心配になる程、長ったらしい攻撃名を付けられたメラリアのダイレクトアタックが火雁を襲う。ただの火球。

 

 

火雁

ライフ4000→1600

 

 

ライフ差が逆転したことで、メラリアの攻撃力が2400から1000になる。これでも、素の攻撃力が100のメラリアは攻撃力が10倍の数値となった。

 

 

「(大丈夫……いくらライフを削られようが、スタンバイフェイズに《キックファイア》さえ墓地に送れれば僕の勝利は確定する)」

「よーし!……あー、でもキックファイアだかパンチファイアだか破壊しないと負けちゃうのか~」

 

 

どーしよ、と一瞬考え込むゆうなだが、今のこの状況に非常に都合の良い赤紫のカードが目に留まった。激しく渦を巻く突風が印象的なカードだ。ゆうなの視線がそのカードに留まったことを受け、メラリアは頷く素振りをした。

 

 

「珍しくメラちゃんと意見が一致したね……カードを1枚伏せて、ターンエンド!」

 

 

ゆうな

ライフ2500

手札6→1

 

 

「(ゆうなが……カードを伏せるだと!?)」

 

 

いつも攻撃一辺倒で後先を考えないゆうなが、相手の出方を窺って「カードを伏せる」という選択をした。その事実が、アサトをこの上なく困惑させる。メラリアの補助があるとは言え、デッキ構築の段階から大きく違っているような気がした。

 

 

アサトは、ゆうなに「罠カード」を使われたことはただの一度も無かった。

 

 

「僕のターン、ドロー!……さぁ勝利の瞬間だひともしさん!スタンバイフェイズに」

 

 

火雁

ライフ1600

手札2→3

 

 

「ちょーっと待ったー!罠カード、発動!《砂塵の大竜巻》!」

「なっ……」

 

 

《砂塵の大竜巻》 

通常罠

(1):相手フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。 その相手のカードを破壊する。

その後、手札から魔法・罠カード1枚をセットできる。

 

 

「(砂塵……!さっきのライボといい、あいつようやく……良いカード使うようになってきたじゃねーか!)」

「火雁くんのフィールドの《チョップファイア》破壊!」

 

 

知らないカード名が出てきたが、ゆうなが指差したカードは見事、破壊された。スタンバイフェイズに効果を発動する直前の、ドローフェイズに。

 

 

「……っ!」

「あっ、カード1枚伏せられるんだー。そこまでテキスト読んでなかったや。じゃあこれね」

 

 

ゆうなは残った1枚の手札を《砂塵の大竜巻》の効果でセットする。初めて使った伏せカードが《砂塵の大竜巻》で、さらにカードを伏せる2段構えの作戦。昨日までアサトにあっさり負けていたバカにしては頭が切れ過ぎている。

 

 

「まさか……まさかひともしさんにここまでやられるなんて思っていなかったよ。僕のやりたいことは全部潰された……それはデュエリストとしては最高の戦術」

 

 

《ライトニング・ボルテックス》で《プロミネンス・ドラゴン》3体を打ち砕かれ、そのリカバリーとして構えていた《キックファイア》による勝利も消えた。常にデュエルを自分優位に進めようとしていた火雁に――これ以上の屈辱は無かった。

 

 

本来ならば、デュエルの中でゆうなに優しさを見せた上で勝利し、スムーズに「付き合う」流れにしたかった火雁。しかしそうも言っていられないような現実が目の前にある。

 

 

――彼女は自分のデュエルタクティクスを上回る戦術を披露した。それだけのことだ。

 

 

その悔しさが、デュエリストとしての本能が、火雁の手にかけさせた。

 

 

手札から禍々しい力を放つ、「星」の描かれていないモンスターカードを……。

 

 

「ひともしさん……いや、ゆうなちゃん!僕は君が好きだ!だから勝つ!勝って君を僕の物にしたいんだ!雨の日も風の日もずっと抱きしめていたい……君の笑顔を見ているだけで僕は幸せな気持ちになれるんだ!その唇も、髪も、瞳も、身体も、全部僕の物にしたい!ゆうなちゃんゆうなちゃんゆうなちゃん」

「えっ……ちょっ、火雁くんどうしたのいきなり!?火雁くん!ねぇ!火雁くん!!」

 

 

堰を切ったように流れ出す言葉。今までの恥じらいはどこに消えたのかという程に。徐々に自分を制御できなくなっていく。その豹変ぶりに少女らしく怯えるゆうな。

 

 

それもこれも、手にした1枚のカードの力だった。火雁の「理性」が薄れ、壊れていく。

 

 

「僕は勝つ!僕がゆうなちゃんを一番幸せにできるんだ!ゆうなちゃんのためにゆうなちゃんを倒す!……行くよ!」

 

 

狂ったように目を見開き、歯を剝き出しにして手札3枚のうち2枚を墓地に送り始める。それはまさに、これから呼び寄せようとしている怪物の「生贄」であった。

 

 

「手札からレベル4《炎帝近衛兵》、レベル5《フレムベル・デビル》を墓地へ送り――」

 

 

九つの星喰らい、現れろ――

 

 

 

「黒き炎纏いし魔獣!!《ディヴィエイター・フレイムエンペラー》!!」